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2015年5月24日 (日)

川崎簡宿火災事件の根は深い

5月17日未明に起きた神奈川県川崎市川崎区日進町の簡易宿泊所(「簡宿」と略すらしい)の火災で9人が死亡、19人が怪我という大事件になった。

本日(2015年5月24日)の朝日新聞で「簡宿 浮かび上がる無縁」と題する記事が掲載された。

 死者は9人。身元がわかったある男性の遺体は、家族が引き取りを拒否した。「決して珍しいことではない」と市の担当者は言う。
 30軒以上の簡宿がひしめく川崎区日進町の取材を通して浮かび上がってきたのは、「無縁社会」へと突き進むこの国の姿だった。
 キャバレー店長、沖縄の基地関係者、潜水士……。職を転々とし、この街に流れ着いていた。「行く当てなんてどこにもない」。みな異口同音に言った。
 市によると、周辺の簡宿には、1300人の生活保護受給者が暮らす。7割にあたる880人は、65歳以上の高齢者だ。
 「結局、ここに押しつけていたのはみなさんじゃないですか」。この街に70年以上住む、ある簡宿の男性経営者は憤った。1960年代、大工や作業員といった労働者が中心だった。どこの宿も廊下にあふれるくらい人がいた。
 JR川崎駅前にいた路上生活者
らを受け入れ始めたのは74年。男性は「川崎大師の玄関口にホームレスがいると見栄えがよくないという声が出て、組合として受け入れた」と振り返る。(朝日新聞2015年5月24日東京版朝刊)

これによると9人の犠牲者のうち身元が判明したのが3人、そのうち1人が家族関係者から遺体の引き取りを拒否されたということになる。
2011年3月11日の東日本大震災で、身元不明遺体についてDNA型鑑定が本格的に導入され、時間は要したものの身元判明に役立った。
大震災では歯型による鑑定も大きな効果を上げたが、歯型鑑定が本格的に導入された事案で思い起こすのは、1985(昭和60)年8月日航機123便墜落事故(群馬県御巣鷹山)であった。
歯型鑑定に必要なのは歯医者の歯のカルテ、治療痕から比較、DNA型鑑定に必要なのは近親の血縁者。近親の血縁者のDNAと比較して確率論的に判定する。
同記事では最後に

犠牲者の身元確認も難航している。判明したのは3人だけ。DNA型鑑定を進める方針だが、血縁のある親族を探し出さなければ照合はできない。(永田大)

と結んでいる。

火災したのは2つの宿泊所、同日は合わせて70~80人が宿泊していたという。1人あたり空間は3畳程度。付近には約30の簡易宿泊所があるという。
宿泊所には単身者、生活保護受給者が多い、という。
現在生活保護を受給しているといっても、それぞれの仕事歴は多彩だ。

同記事には稲葉剛さん(NPO自立生活サポートセンターもやい)のコメントが掲載されていて

今回の火災について「『住まいの貧困』という社会の構造的な問題をあぶり出した」と指摘する。

 生活保護受給者への住宅扶助は、一般的に月5万~6万円。アパートを借りられる金額だが、単身で低所得の高齢者は、孤独死を嫌う家主から受け入れられにくい。「住居の選択肢が少なく、劣悪な環境に追い込まれている」と稲葉さん。


とある。

単独世帯での死が長期間発見されないというケース(「孤独死」「孤立死」と呼ばれるが)が多くなり、そのため賃貸住宅の場合、リニューアル費用、家賃が低くなる、新規賃貸者がいない等でなかには1千万円という損害賠償金が遺った家族に請求、というケースもある。
単身で労働できなくなった人たちの行き場がない。

この記事では防災上の違法建築の問題がまた指摘され、このことは火災発生当初から大きく取り上げられてきたが、ここにきてようやくことの本質に迫る記事が出てきた。

中高年の単独者の問題は、特に男性に多い。
自死が多いのもこの人たちである。

2010年のNHK「無縁社会」によれば、身元不明者も含め遺体引き取りがなかった遺体は3万2千件であったから、今では5万人を超えているだろう。これは死後であるから生前に周囲と関係なく生きざるを得なかった人はこの倍はいるだろう。
2013年の死亡者は約127万人、このうち約10~15万人は理由や意思はそれぞれだろうが、孤立を強いられて生きた人と推定できよう。これらの人が死亡すれば盛大に葬式をされるというわけはなく、葬式をしない直葬に処されるケースが多い。

2013(平成25)年の人口動態統計(確定数)が5月22日に公表された。
これによると13年の年間死亡数は1,268,436人、年間出生数は1,029,816人、自然増減はマイナス238,620人。
ちなみに、合計特殊出生率は前年より若干改善されて1.43、婚姻は660,613、離婚231,383となっている。

離婚数は婚姻数の35%になる。(これは正当な比較ではないが)
婚姻が永久就職ではなく、離婚は珍しいものではない、ということが定着した感じである。
離婚に至る原因にはさまざまあり、そこに男性の意識、言動、暴力、就職、その他の問題があり、女性配偶者がそれから離脱せざるを得ない事情も多々ある。
しかし、特に中高年者の離婚が貧困男性に与える影響は大きいのも事実である。それは生命のリスクと言ってもよい。

また、生涯未婚率は男女とも年々上昇している。『厚生労働白書』によれば、

   
生涯未婚率の推移
(単位:%)
男性 女性
1985 3.9 4.3
1990 5.6 4.3
1995 9.0 5.1
2000 12.6 5.8
2005 16.0 7.3
2010 20.1 10.6
2015 24.2 14.9
2020 26.6 17.8
2025 27.4 18.9
2030 27.6 18.8
2035 29.0 19.2
資料:国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)(2013年1月推計)」、
    「人口統計資料集(2014年版)」
(注)   生涯未婚率は、50歳時点で一度も結婚をしたことのない人の割合であり、2010年までは
    「人口統計資料集(2014年版)」、2015年以降は「日本の世帯数の将来推計」より、
    45~49歳の未婚率と50~54歳の未婚率の平均。

1960年生まれの生涯未婚率は9.4%(実績)であるが、社会保障・人口問題研究所の『将来推計人口』では1995年生まれの人の生涯未婚率を14.7%~26.2%と仮定しており中位推計の仮定値を20.2%としている。

こうしたデータの意味するところは人間は結婚して家庭をもつ、という以外のモデルを考えなくてはならない、ということだ。
高齢者の単独世帯のもつ問題がさまざまな形で露出しているが、この問題は今後いやがおうにも拡大していくことを前提に考えなければならない。

TBSラジオの22時から始まる「荻上チキ セッション22」22時~24時頃帰宅途中で運転しながらよく聴く番組だ。
これを聴くと、若い世代の問題意識が鋭く、深くなっていることに気づかされる。
この番組でも「大人のひきこもり」をテーマにしていた。
10年以上前には「ひきこもり」は若年者の問題として盛んに語られたが、複数の県の調査では40歳以上のひきこもりが半数を超えたという。
将来的にこのまま何も対策しないでおけば中高年のひきこもりが拡大していき、高齢世帯におよぶことは必至である。

こうした問題は社会の底に隠されて、なかなか表面化しにくい問題であるが、川崎簡宿火災事件は、こうした問題のいったんを露わにしたといえよう。

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